Mercuryとは

Mercuryは、米国で事業用の銀行口座を提供するfintech企業だ。

2017年にImmad Akhund、Jason Zhang、Max Tagherの3人が創業し、2026年5月時点で30万社以上が利用している。

年換算収益は2025年第3四半期時点で$650M、GAAPベースの黒字は4年連続である。出典

ストーリー

創業から成功に至るまでの道のり。

2026年5月、Mercuryは$200MのSeries Dを$5.2Bの評価額で発表した。

TCVがリードし、Andreessen Horowitz、Coatue、CRV、Sapphire Ventures、Sequoia Capital、Spark Capitalが参加した。

創業から9年で、事業用口座は決済の器から財務の起点へと役割を変えた。出典

Immad Akhundは発表記事で「お金はほとんどの事業判断の中心にあるのに、既存の銀行はその判断を助けてくれない」と述べ、規制産業の内側から体験を作り直すしかないと考えたと説明している。出典

2017年の出発点

Akhund、Jason Zhang、Max Tagherの3人がMercuryを始めたのは2017年である。

最初の種投資資料の段階から、口座だけでなくカードとソフトウェアまで含めて設計する構想を持っていた。出典

当時の事業用銀行は、口座開設に時間がかかり、入出金の画面と会計ソフトが分断されていた。

創業者は自分で帳簿をつなぎ合わせるしかなく、その手間が資金繰りの判断を遅らせていた。出典

2019年の口座開始と2022年のカード

Mercuryの口座が利用者へ届いたのは2019年だ。

まず「安全にお金を預けられる最高の口座」を作ることを最初の目標に置き、信頼の獲得を優先した。出典

2022年には法人クレジットカードIOを投入する。

IOは後にMercury利用者の間で最も使われる法人カードとなり、利用限度額が口座残高に連動する設計へ進化した。出典

黒字と調達が重なった2025年

Mercuryは2022年6月から黒字を続けている。

2025年3月のSeries Cでは$300Mを$3.5Bの評価額で調達し、20万社以上、2024年の年間収益$500M、年間取引額$156Bという数字を公表した。出典

同年は請求書発行、支払い、会計自動化、経費管理の4製品を投入し、個人向けのMercury Personalにも広げた年でもある。

単品の口座から財務業務のまとまりへ商品構成を変えた。出典

給与と銀行免許へ広げた2026年

2026年4月、Mercuryは給与・福利厚生・労務のCentralを買収した。

給与はMercury利用者の支出の約20%を占め、Centralは約500社の顧客と$175Mの給与処理実績を持っていた。出典

2025年12月にはOCCへ国法銀行免許を申請し、FDICへ預金保険も申請した。

Akhundは「FDIC保険の国法銀行になることは長期ビジョンと一致する」と述べている。出典

結び

Mercuryの軌跡は、最も慎重に選ばれる機能で信頼を取り、その上に隣接機能を積む進め方だった。

規制と創造のどちらかを選ぶのではなく、規制の内側でソフトウェアの自由度を確保する。

この姿勢が、次の10年の設計を決めると考えられる。

独自分析

PMF (プロダクトマーケットフィット)

Mercuryが刺さるのは、創業直後の米国スタートアップと中小事業者の財務担当者だ。

口座開設、カード発行、支払い、会計連携が別々のツールに分かれている状態では、資金繰りの判断に必要な数字を毎月手で集め直すことになる。

Mercuryは口座を起点に取引データを1か所へ集め、カードや請求書の情報を同じ画面で扱えるようにした。出典

2025年末には新規顧客の73%がAI・テックスタートアップ以外から来ており、課題はスタートアップ固有ではなく、事業者の財務業務全般に共通すると確認できる。

NPSが73.8と銀行業界平均の34を上回る点も、体験の差が支持に変わっている証拠だ。出典

参入障壁 (Moat)

参入障壁は、口座と業務ソフトを同じデータモデルで運用している点にある。

決済、カード、請求書、会計を横断するデータを顧客ごとに蓄積すると、乗り換え時の移行コストは金額ではなく業務フローの作り直しになる。出典

ネットワーク効果

ネットワーク効果は弱い。

顧客同士が直接つながる構造ではなく、価値は個々の企業の財務データ統合から生まれる。

一方で銀行免許と預金保険の枠組みは、認可後に規制資産として効いてくる。

ターゲット

中心は米国の創業初期からシリーズA前後のスタートアップで、専任の財務担当を置けない段階の企業だ。

法人カードを当日発行し、経費の承認と会計連携を同時に整えたいチームに向く。

大企業の資金管理部門や、複数国の規制対応が必要な企業は現時点の主対象ではない。

成功要因

第一に、口座、カード、業務ソフトという拡張順序を守ったこと。

2019年の口座で信頼を取り、2022年のIOで日常利用を増やし、2025年に請求書・支払い・会計・経費管理を足した。出典

第二に、黒字を維持しながら資本を積んだこと。

2022年6月から黒字が続き、Series CとSeries Dを黒字前提で実施している。出典

失敗・課題

最大の不確実性は銀行免許の認可だ。

2025年12月にOCCへ申請したが、認可時期と条件は規制当局の判断に依存し、認可まではパートナー銀行モデルの制約が残る。出典

また、顧客増の一部は2023年のSVB破綻という外部ショックに由来する。

金利が低下すればTreasuryの利回り訴求は弱まり、運用収益への依存は収益変動要因になる。出典

グロース戦略

獲得はプロダクト経由の口コミと創業者コミュニティが中心で、大規模広告には依存していない。

無料の口座とカードで導入し、利用が増えるほどTreasury、請求書、会計へ広がる設計だ。

2026年第1四半期の新規申込は前年同期の2.5倍で、市場拡大とシェア獲得が重なった。出典

トレードオフはサポートと与信の負荷だ。

顧客数が年50%で増える局面では、審査と運用の人員を先に厚くする必要があり、黒字継続とのバランスが問われる。出典

主要チャネル: founder-blog, community, product-led, partnerships

学べること

規制産業では、規制を回避するのではなく規制の内側で顧客接点を設計した方が強い。

Mercuryは銀行機能を提携先に委ね、画面と業務フローを自社で握ることで差別化した。

もう一点は、最も慎重に選ばれる機能で信頼を取ってから隣接領域へ広げる順序である。出典

日本で展開するなら

日本で同事業を狙う場合、銀行免許を持つか提携するかが最初の分岐になる。

Mercuryは提携モデルで顧客を獲得し、規模が出た段階で免許申請へ進んだ。

日本では電子帳簿保存と会計事務所との連携が必須になるため、会計機能を内製するか既存ソフトへの連携に徹するかで初期の獲得速度が変わる。

主な競合

Timeline

創業から成功に至る道のり。転機ごとの収益・調達・バリュエーション (出典あり) も併記します。

  1. ローンチ出典

  2. Immad Akhund、Jason Zhang、Max TagherがMercuryを創業した。出典

  3. 事業用銀行口座の提供を開始し、最初の顧客を獲得した。出典

  4. 法人クレジットカードIOを投入し、同年6月から黒字化した。出典

  5. 2024年の年間収益が$500M、年間取引額が$156Bに達した。出典

    • ARR $500,000,000
  6. $300MのSeries Cを$3.5Bの評価額で調達した。Sequoia Capitalがリードした。出典

    • 調達 $300,000,000
    • バリュエーション $3,500,000,000
    • ユーザー 200,000
  7. 年換算収益が$650Mに到達した。出典

    • ARR $650,000,000
  8. OCCへ国法銀行免許を申請し、FDICへ預金保険を申請した。出典

    • ユーザー 300,000
  9. 給与・福利厚生・労務のCentralを買収し、給与領域へ進出した。出典

  10. $200MのSeries Dを$5.2Bの評価額で調達した。TCVがリードした。出典

    • 調達 $200,000,000
    • バリュエーション $5,200,000,000
    • ユーザー 300,000

ポジショニング

分析で挙げた競合プロダクトとの相対位置を示しています。

無料の口座から入り、業務ソフトを積み上げる中価格帯。提供範囲は銀行機能から財務バックオフィス全般へ広い。

参考リンク

関連プロダクト